2010年9月26日日曜日

糖尿病について思うこと

糖尿病は私が最も興味をもって勉強している分野です。理由は色々ありますが、一つは現代の生活習慣病を代表するような疾患だということでしょうか。現在国内で800万人以上の患者がいるとされ、今後さらに加速度的に増えると予想されています。現代の生活様式では誰もが糖尿病に罹患する危険があると言っていいでしょう。

一方、生活習慣病というぐらいですから、生活習慣を改めるだけで案外あっさり良くなったりします。私の知っている患者さんでインスリン注射をされていた方がある事情で刑務所に入ったのですが、そうしたらインスリン注射が必要ないほどに改善してしまいました。

また、しっかりした根拠があるわけではないのですが、経験的にかなりの確率で糖尿病が治ることがわかっている方法があります。それは外科的なダイエット術なのですが、手術で胃を小さくしてしまうことなのです。そうすることで食事量が劇的に減り、糖尿病が改善するという報告があります。

これらの例を見るまでもなく、食事や運動などの生活習慣を改善することで糖尿病が改善することは明白です。しかしながら、それが簡単に出来ないのもまた人間の弱さであり、これは当然のことです。

しかし一方で、かつて「ぜいたく病」であるかのように言われた名残は未だ存在します。たしかに日本があまり豊かでなかった頃はそういう一面もあったかもしれませんが、現代ではむしろ逆です。不規則な生活をおくらざるを得ない人、ジャンクフードやコンビニの弁当で食事を済ませざるを得ない人、どちらかというと社会的な立場の弱い人の方がリスクが高いと言えます。

一般の人が糖尿病と聞いてイメージするのは、食べてばかりいる人、自己管理の出来ない人、生活が乱れている人、などといったイメージではないでしょうか。

たしかにそういった一面があることは否定しませんが、前述した通りそれは人間誰しもあることであり(私だって医療者でありながら禁煙ができません)、飽食の現代では誰にでも起こりうることです。一部の心ない医療者も含め、それを誤解した人が糖尿病の患者さんに偏見を持つのは悲しいことです。

糖尿病患者が加速度的に増えるこれからの時代、大事なのは国民が糖尿病に対する正しい認識を持つことだと思います。単に医師に言われるままに薬を飲んでいるだけでは何の解決にもならない病気です。どんな薬よりも、正しい知識と心構えを持って病気と向きあうことが糖尿病治療における一番の処方せんだと考えています。

当ブログの「糖尿病」のラベルでは主に一般の方向けにそういった情報提供をしていきたいと思います。

2010年9月23日木曜日

NSAIDの話

NSAIDとはNon-Steroidal Anti-Inflammatory Drug(非ステロイド性抗炎症剤)の略で、化学構造上ステロイドではありませんが、ステロイドのように抗炎症作用を持つ薬剤の総称です。
抗炎症作用の他に解熱作用、鎮痛作用、さらに血小板凝集抑制作用などを有する薬物もあるため、臨床において広く使われています。

NSAIDの作用機序
NSAIDはアラキドン酸カスケード(生体内の反応経路)の酵素シクロオキシゲナーゼ(COX)の活性を抑え、ヒスタミンやブラジキニンなどの炎症性物質が働くのを抑えて炎症を抑えます。
1991年、COXに2つのタイプがあることがわかり、それぞれCOX-1とCOX-2と呼ばれるようになりました。そしてCOX-1は主に胃粘膜保護や腎血流量の増加などの役割を果たすプロスタグランジンの合成に関わり、COX-2は主に炎症に関与する炎症性物質の合成に関わっていることが明らかにされました。

㈱第一製薬「NSAID HANDY MANUAL」より


つまりCOX-2を阻害すれば炎症は抑えられますが、同時にCOX-1を阻害すると胃の粘膜が弱くなります。痛み止めが胃に悪いのはこういう理由です。
従って、出来るだけCOX-1を阻害せずにCOX-2を選択的に強く阻害すれば、副作用の少ない強力な抗炎症作用が得られると考えられています。

NSAIDの種類

血中濃度半減期による分類


半減期とは服用した薬が体の中から半分なくなるまでの時間、分1とは一日一回、分3とは一日三回服用するという意味です。
半減期の長い薬は一日一回の服用で済みますが、誤って服用した際の危険性が高く、肝・腎機能障害のある方や高齢者で体内に蓄積しやすいです。
半減期の短い薬は逆に服用回数は多くなりますが、量の調節がしやすく、効果の発現も早いため、早期に症状を改善したいときに有用です。

COX選択性による分類
※セレコックスのCOX-1、COX-2への活性は資料が無かったため空白になっています。



IC50とは薬剤がCOX活性を50%抑制する濃度で、数字が大きい方が効き目が弱いという意味です。COX-2選択性とはCOX-1への活性をCOX-2への活性で割った数字、つまりCOX-1への何倍COX-2に対して効くかという意味の数字です。単純に考えてこれが大きいほど胃腸などへの副作用が弱く、炎症作用が強いということになります。
従ってCOX-2選択性の低い薬剤は徐々に使われなくなっていますが、アスピリンはCOX-1を介した抗血小板作用から脳梗塞の予防などに使用されています。

化学構造による分類

同じグループに属するNSAIDは類似した特徴を持っています。

NSAIDの副作用
最も多いのは胃腸障害で、前述したように胃の粘膜を保護するプロスタグランジンの生合成を抑制するため、また直接の胃刺激作用により起こります。空腹時の服用は避け、頓服の場合は牛乳や胃薬と一緒に飲みましょう。
次に多いのが腎障害です。足がむくんだり血圧が高くなったりします。高齢者やもともと腎機能が悪い人は服用に際して注意しましょう。

NSAIDによる治療は対症療法
対症療法とは症状を緩和させる治療のことで、根治療法(病気そのものを治す)や原因療法の反対の言葉です。
痛みの原因そのものを取り除ければそれに越したことはありませんが、なかなかそうはいかない疾患の場合に痛みを緩和させるためにNSAIDを使用します。
しかしNSAIDは前述したような副作用があります。漫然と使用し続けるのにもリスクが伴うため、使用する目的をハッキリさせ、症状が緩和している間は減量ないし中止を考慮し、痛みとうまく付き合っていきましょう。

2010年9月20日月曜日

ブログ開設

ブログ立ち上げて情報発信していこうと思い立ちました。よろしくお願いします。
タイトルの「HIGHEST DRUG」とは直訳すると「至高の薬物」というような意味ですが、なぜ「medicine」ではなく「drug」なのか?

「medicine」だといわゆる医療用医薬品のことを指すのに対して、「drug」だと毒物だとか乱用される薬物のようなネガティブな意味も持ちます。

私は薬剤師として薬と毒は本質的に同じものと捉えています。両方とも人体の機能に影響を及ぼす物質を指していて、それが有益なものなら薬、害悪なものなら毒と呼ばれる。それだけの違いであって、例えば同じ物質であっても使う人によっては薬にも毒にもなるわけです。

当たり前のことですが、drugは正しい使用法の情報を付加してはじめてmedicineとなります。至高の薬物なんていうものがあるとしたら、それは一つの化学物質ではなくて、人によって違うもの、さらには薬物だけでなく、人の健康に関わる全てのものです。そんなことを考えてこんなブログタイトルにしました。